恋する気持ちの不思議

私はたぶん、彼に恋心を抱いている。

だって、彼を見ると胸がどきどきするから。

話しかけられると声が上ずってしまうから。

彼が私のそばにくると緊張して手が冷たくなってしまうから。

彼のこと、ほとんど何も知らないくせに彼のことが好きだと思う気持ちって不思議だ。

 

どこが好きかって、

 

笑った時に福の神みたいな彼の顔が好き、わたしのことを呼ぶ彼の声が好き、くまさんみたいな背中が好き、ただそれだけ。

 

彼と私の人生は交わらない。

彼はずるい奴だ。モテる男の典型。私の気持ちを知ってか知らずか、時々私のことを好きなそぶりを見せる。だけど、それが愛じゃないのは私にもわかる。

私に対する征服欲や性欲の類の感情だと思う。

 

そんなことを言ったら私だって彼にひどい。

彼に惹かれているところといったら、彼の身体的特徴ばかりじゃないか。

彼の精神や考えや感情に興味があるのかしら。

 

魂が呼応する相手を探しているのに、私の生殖細胞が時々邪魔をする。

男は「時と場合によって下半身で考えるときと脳で考えるときがある」っていうけど、女だって同じだと思う。

 

早く仙人になって性的な煩悩から解き放たれたい。

 

彼とは友達。それ以上はない。今までもこれからも。

彼は今週いっぱいで私から遠く離れたところに転勤する。

 

彼の声を頻繁に耳にすることもなくなる。

笑った顔を見なくて済む。

ほっとしてるけど、すでに寂しくて泣きそうだ!

 

これでいい。

泣きたいだけ泣いてすっきりしたらきっと春が来る。

冬が終わって、桜が咲いて、汗ばむ季節になる頃には私は彼のことを何の痛みもなしに思い出すことができると思う。彼と笑って話もできるだろう。

 

胸が痛いのはほんの一瞬のことだ。