RSウィルス劇症化のメカニズムについて。

今日はゼミだったので、ちょっとメモ。

Jozwik A et al., (2015) RSV-specific airway resident memory CD8+ T cells and differential disease severity after experimental human infection.Nature Communications 6:10224.

 

RSV(英: respiratory syncytial virus )感染は、5歳までに95%の人が感染する気道感染症。大人では、鼻水やのどの痛みなど軽い風邪で終わることがほとんどのウィルス。ただし乳幼児では劇症化し肺炎などの原因になることもある。そして、このウィルスには有効なワクチンはまだない。

 

私はウィルスワクチンの研究をしているけど、ウィルス感染と免疫機能の関係は複雑でまだまだ未知の部分が多すぎる。

 

今回の論文はこのRSウィルス感染が劇症化するメカニズムに迫った論文で、イギリスの有名雑誌Nature Communicationsに掲載されたものだ。

 

まず何と言ってもこの論文で一番すごいことは、感染実験なのに、人間を使っているというところ。日本では、感染実験ではサルを使うのが最上級であり、人を使うなんて許可が下りないし、絶対に無理な実験だ。しかも、成人49人も使っている。一体、どんな手を使って集めんだ。たぶん、高額な報酬だろうけど・・・。

 

とにかく、この49人にRSウィルスを感染させて、症状を観察し、血液とBAL(肺胞洗浄液:肺の中の液体)を採取し、それらのサンプルの中から免疫の動きと症状の重症度の相関を見ている。

 

実験データが膨大でよくぞここまでやったというボリュームの論文。さすがNature系。

 

これらの結果から言えることは、RSウィルス特異的なCD8 T-cellの誘導は血液中とBAL中のデータで全然違うこと。ウィルス感染実験では多くの場合血液データしか採取しない。肺の液体を採取するよりずっと簡便だからだ。

 

しかし、今回の研究では、全身性である血液中のCD8 T-cellはウィルス抑制にあまり関係なく、むしろ感染局所、つまりBAL中のCD8 T-cellが感染後の劇症化と関係があったということ。

 

この論文を読んで冷や汗をかいている研究チームもたくさんあると思う。ウィルスワクチンを研究していいて、「血液中のCD8 T-cellが増えている=ワクチン効果がありそう」とは言い切れなくなったからだ。

 

RSウィルスは今フェーズ1までいっているワクチンがある。特にそこの研究チームは真っ青なんだろうなぁ。でも、私は言いたい。人間からこんなにBAL採取するなんて日本じゃ絶対無理!!