結核ワクチン、ヒューマントライアルの失敗

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Fletcher et al., (2016) T-cell activation is an immune correlate of risk in BCG vaccinated infants. Nature communications 11290.

 

今月、科学雑誌の超有名所Nature系からpublishされたばかりの論文。今回は私の発表。

南アフリカでおこなわれたMVA85Aを皮内接種した結核ワクチンのヒューマントライアルの実験結果をまとめたもの。

日本ではそれほど問題視されていない結核だが、世界においては、HIVの次に死者の多い感染症で、2013年には900万人の患者が発症し150万人が死亡している。

そして、今のところ、世界で結核に有効性が認められているワクチンはBCGしかない。

しかし、このBCGも成人までしか有効ではないため、成人後の結核を予防することはできない。そのため、現代でも大人や高齢の方の結核発症があとを絶たない。

そんな結核の新規ワクチンを試した研究が今回の論文。

南アフリカで5000人規模で2年間にわたっておこなわれたが、ワクチンが効果がないという中途結果で打ち切りになってしまったという暗黒のワクチンAg85A抗原。そのワクチンと打たれた人の免疫反応を時間を追ってひたすら調査している。膨大な量の実験、膨大なマス解析、多変量解析、回帰ロジスティック。読むだけでクラクラしてくる。しかし、こんなにやったとしても不幸なことにクリアな結果は得られなかったのだ。

 

実は私が研究をしているのがこの抗原にとても近くAg85B抗原。AとBの差。怖い・・・。しかも、実際、実験の感触はあまり良くない。怖い・・・。同じ道をたどるのか・・・。

 

今回の論文での最大の失敗はサル実験を先におこなわず、人間でおこなってしまったことだと言われている。実際、この論文で人で効果が見られず、のちにサルで実験したら同じように効果がなかった。

 

幸い、うちの研究所はサルを使うことができるが、サルの種もかなりの種類があるし、どのサルを使うかは予算との兼ね合いもある。

今日の論文を読んで、とにかく背中に冷たいものを感じた。